結論:自社法人があれば創業者自身もEPを取得できる
マレーシアでは、自分が設立したSdn Bhd(私有有限会社)に自分自身を雇用する形で Employment Pass(EP)を申請することが制度上認められています。他国の「自己雇用ビザ」に相当する仕組みですが、マレーシアの場合は「法人が外国人を雇用する」という体裁を整えることが必要です。
2024年改定のガイドラインでは、EP申請者の最低月給がRM 5,000(Category II)またはRM 10,000(Category I)に設定されています。スタートアップ創業者にとって現実的なのは Category II からのスタートです。本記事では Sdn Bhd 設立から EP 取得まで、ステップ別に実務レベルで解説します。
Employment Pass の種類と要件(2024–2025年現行)
| カテゴリ | 最低月給 | 契約期間 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| Category I | RM 10,000 以上 | 最長 5 年 | 上級管理職・高度専門職 |
| Category II | RM 5,000 以上 | 最長 2 年(更新可) | 中級専門職・スタートアップ創業者 |
| Category III | RM 3,000 以上 | 最長 1 年(更新上限 2 回) | 現場技術職 |
スタートアップ創業者が自社に「CEO」「Director」「CTO」などの役職で雇用される場合、Category I または II が現実的な選択肢です。
学歴・職歴要件
- Category I:学士号以上、または関連分野で 10 年超の実務経験
- Category II:学士号以上、または関連分野で 5 年超の実務経験
- Category III:デプロマ(専門学校卒)以上
「関連分野の実務経験」は、職務内容と直接結びついていることを書類で証明する必要があります。MBA や IT 系の学位は審査で有利に働く傾向があります。
ステップ 1:Sdn Bhd を設立する
EP 申請の大前提は有効なマレーシア法人の存在です。ラブアン IBC やシェルカンパニーでは EP の申請母体にはなれません。Sdn Bhd(Companies Act 2016 準拠)が必要です。
設立の主要要件(2025年現行)
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 最低払込資本金 | RM 1(法律上の最低値)。ただし EP 申請にはRM 500,000 以上を強く推奨(後述) |
| 取締役 | 最低 1 名(マレーシア居住者)。外国人創業者は 2 名目以降の取締役に就任可 |
| 株主 | 最低 1 名(外国人 100% 株主可) |
| 設立期間 | 通常 3〜7 営業日(SSM:会社委員会への登記) |
| 登録住所 | マレーシア国内の実住所またはバーチャルオフィス |
払込資本金と EP 審査の関係
EP の審査機関であるEXPATRIATE SERVICES DIVISION(ESD)/ MyEG 経由の MDEC / TalentCorpは、申請会社の財務健全性を審査します。
- 払込資本金 RM 500,000 以上:原則として EP 枠(外国人雇用枠)の取得がスムーズ
- 払込資本金 RM 250,000〜499,999:EP 承認は可能だが、追加書類(事業計画書・財務予測)を求められるケースが多い
- 払込資本金 RM 250,000 未満:審査が非常に厳しく、実績なしでの初回申請は困難
スタートアップ資金を法人口座に払い込み、銀行残高証明書(Bank Statement)で RM 500,000 以上を示すのが最も確実なアプローチです。
ステップ 2:EP 申請に必要な書類を準備する
法人側が用意する書類
- SSM 登記証明書(Certificate of Incorporation)
- M&A(Memorandum & Articles of Association)
- 最新の株主名簿・取締役名簿
- 銀行残高証明書(3 ヶ月分)
- 監査済み財務諸表(設立 2 年目以降)または事業計画書(設立初年度)
- EP 申請フォーム(ESD オンラインポータル経由)
- 雇用契約書(Employment Contract):役職・月給・業務内容を明記
申請者(外国人)が用意する書類
- パスポートコピー(有効期限 18 ヶ月以上を推奨)
- 最終学歴証明書・卒業証書(公証・アポスティーユ付き)
- 職務経歴書(英語)
- 推薦状または在職証明書(前職)
- 証明写真(パスポートサイズ)
注意:学歴証明書の公証方法は国によって異なります。日本の場合は外務省のアポスティーユ、またはマレーシア大使館での領事認証が必要です。
ステップ 3:ESD ポータルから申請する
EP 申請はESD(Expatriate Services Division)のオンラインポータル(www.esd.imi.gov.my)から行います。2022 年以降、原則としてオンライン申請が義務化されています。
申請フロー
- 法人アカウントを作成(Sdn Bhd の登記番号で登録)
- 外国人従業員プロファイルを登録
- 書類をアップロードし、申請料を支払う
- 申請料:RM 1,060(Category I・II)、RM 360(Category III)※2024 年時点
- 審査:標準で 5〜14 営業日(込み合う時期は 4〜6 週間かかる場合も)
- 承認通知が届いたら、パスポートを ESD 窓口に提出してステッカー(ビザ)を貼付
審査で落ちやすいポイント
- 月給設定がカテゴリ最低額ギリギリで、会社の財務規模と不釣り合いに見える
- 学歴・職歴と申請役職のミスマッチ(例:文系卒でCTOを申請)
- 雇用契約書の業務内容が抽象的すぎる
- 法人設立直後(1〜3 ヶ月以内)で取引実績がゼロ
ステップ 4:Dependant Pass・Long-Term Visit Pass の手配
EP が承認されると、配偶者・18歳未満の子どもにはDependant Pass(DP)を申請できます。
| パス種別 | 対象 | 就労可否 |
|---|---|---|
| Dependant Pass | 配偶者・子ども | 原則不可(別途就労許可申請が必要) |
| Long-Term Visit Pass | 親・義親(EP 保有者が Category I の場合) | 不可 |
DP 保有の配偶者がマレーシアで働きたい場合は、Employment Pass または Professional Visit Pass の別途申請が必要です。
コスト・タイムライン試算(Sdn Bhd 設立 → EP 取得)
| フェーズ | 費用目安 | 所要期間 |
|---|---|---|
| Sdn Bhd 登記(SSM) | RM 1,010〜1,500 | 3〜7 営業日 |
| 定款作成・秘書費用 | RM 2,000〜5,000 | 同上 |
| 払込資本金(法人口座入金) | RM 500,000(推奨額) | 入金後即時 |
| EP 申請料 | RM 1,060 | — |
| EP ステッカー発行料 | RM 60 | — |
| エージェント代行費用 | RM 5,000〜15,000 | — |
| 合計(資本金除く) | 約 RM 8,000〜22,000 | 設立〜EP 取得まで 4〜10 週間 |
払込資本金 RM 500,000 は会社の資産として法人口座に残ります。個人への引き出しは取締役貸付(Shareholders' Loan)などの手続きが別途必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. ラブアン IBC でも EP を取得できますか?
ラブアン IBC はオフショア法人であり、マレーシア本土での事業活動を原則として行えません。EP の申請母体にはなれないため、本土での居住・就労を目的とする場合は Sdn Bhd が必要です。ただし Sdn Bhd とラブアン IBC を併設し、ラブアン側で節税・国際取引、Sdn Bhd 側で EP を取得するという二層構造を採用するスタートアップもあります。
Q2. 設立したばかりの法人(売上ゼロ)でも申請できますか?
可能ですが、代わりに詳細な事業計画書・財務予測(3 年分)と資本金の厚みで審査官を納得させる必要があります。売上実績がある場合より審査は厳しくなります。
Q3. EP の更新はどうすればよいですか?
Category II(2 年)の場合、満了 3〜6 ヶ月前から更新申請を行います。更新時は最新の財務諸表・監査報告書・税務申告証明(LHDN)が必要です。会社が黒字である必要はありませんが、事業継続の実態が求められます。
Q4. MM2H との違いは?
MM2H(マレーシア・マイ・セカンドホーム)はリタイアメント系の長期滞在ビザで、就労は原則禁止です。EP は就労・経営を前提としたビザです。目的・要件が根本的に異なります。
まとめ
マレーシア Sdn Bhd による Employment Pass 取得の要点を整理します。
- Category II EP の最低月給は RM 5,000。役職・学歴と整合性を取ること
- 払込資本金は RM 500,000 以上が審査通過の現実的なボーダーライン
- 設立から EP 取得まで最短 4〜6 週間。書類不備があると大幅に延長される
- ラブアン IBC は EP の申請母体にならないが、Sdn Bhd と二層構造で活用可能
- EP 更新には事業継続の実態(財務諸表・税務申告)が求められる
法人税・個人所得税の取り扱い、ラブアン IBC との組み合わせ戦略については個別の税務・法務状況によって大きく異なります。最終的な判断は、マレーシア法資格を持つ弁護士・公認会計士にご相談ください。
マレーシアでの法人設立・EP 申請手続きについてご不明な点があれば、KL 拠点の Bangga までお気軽にご相談ください。
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